荷物を抱えて玄関の扉を開けようとした時、まだ若干の躊躇いがあった。

右手にはボストンバッグ。今年の誕生日に、特別欲しくは無いけど高価なブランド物だからとねだって貰ったヤツ。
左手にはもう3年くらい乗っている自転車の鍵。毎日の登下校も、買い物も一緒の愛車。
私は両手を握り締めた。
今更何を迷うって言うんだろう?
靴棚に立てかけてある姿見が、制服のまま思いつめた表情の私を移している。
この制服を着るために勉強していた時期もあったけど、私自身がそう願った事は1回たりともなかった。
そうだよ。
私を此処に縫いとめておくものなんて、何も無いじゃない。
ずっと自由になりたかった。
何処かへ行ってしまいたかった。

『連れてってあげるよ。本気で行きたいなら』

レイジの言葉が耳元で甘くリフレインする。
本当に?
連れて行ってくれる?
私を?
―――今行かないと一生行けない。
私は選ぶんだ。逃げるんじゃない。

「………連れて行って、私を」

そう呟いた後、私は家を飛び出していた。